【井熊コラム#22】「カーボンニュートラルの潮流を読み解く」

· 井熊コラム

このメルマガの原稿を書いている時、ブラジルのベレンでCOP30(国連気候変動枠組条約第30回締約国会議)が開催されています。パリ協定を実現した2015年のCOP21、その後の各国・地域のカーボンニュートラル宣言で加速した気候変動対策の流れですが、COP30については期待が高まっているように思えません。それどころか、ここ数年、洋上風力発電からの撤退、水素事業からの撤退、EV関連投資の延期、などカーボンニュートラルの流れを減速する動きが顕著です。一方で、天然ガス火力発電向けのガスタービンの受注・生産は活況を呈しています。企業にとってカーボンニュートラルの流れがどこに向かうのか見えにくくなっています。

先日、「脱炭素戦略アップデート」と題する講演を行いました。カーボンニュートラルの流れを見失うと日本企業の競争力が低下すると考えたからです。私が産学官連携や新事業支援などで活動している北陸地域でも、多くの企業がカーボンニュートラルの影響を受けている様子が見て取れます。同じことは他の国・地域でも起こっているのですから、カーボンニュートラルの流れを見極めることは日本企業の競争力の向上に資するはずです。2020年、世界に先駆けてカーボンニュートラルを宣言した中国は、各国・地域に対して産業競争を仕掛けたという見方があります。5年経った段階で、産業競争は中国の完勝と言える状況にあります。一方、自動車分野では一時的な熱狂でEV開発に邁進した企業と長期的な流れを冷静に捉えたトヨタの間に大きな差が着いています。振り返れば、カーボンニュートラルが国や企業の競争力に大きな影響を与えるかが分かります。

カーボンニュートラルの流れを見極めるのに最も大切なのは、政治や一部の企業の目立った動きに惑わされず、技術的な観点を基軸に中期、長期のうねりに目を向けることです。政策的に言えない本音もありますから、企業は自らの努力で流れを見極め、商品開発やビジネスに反映していく必要があります。日本企業が、カーボンニュートラルの剣が峰を切り抜け、飛躍への道を掴むことを期待します。