【井熊コラム#20】「働き続ける理由」

· 井熊コラム

9月になっても猛暑日が続いていますが、朝夕は何となく秋風が感じられるようになりました。「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉は辛うじて健在のようです。

さて、政府の統計によると、高齢者の就業率は年々増加しており、最近では60-64歳で4分の3、65-69歳でも半分の人が働いているとのことです。日本の高齢者の就業率は欧米諸国より高くなっていますが、就業率が右肩上がりの傾向にあることは欧米も変わらないようです。

高齢者の就業率が高まっているのは何故でしょうか。年金の支給開始が後送りなり老後資金に不安がある、健康寿命が伸びた、高齢者の就業条件が改善された、健康のため、生き甲斐のため等々、個人の事情によって考え方はまさに千差万別です。私は、67歳になった今でも、現役時代とあまり変わらない密度で働いていますし、当面仕事を辞める予定はありません。度々、「何故、そんなに働くの」と聞かれることもありますが、色々な理由が頭を巡って、「これだ」という答えになりません。

先日、テレビでロック歌手の矢沢永吉さんとプロ野球のイチローさんの対談が放映されていました。音楽界とスポーツ界のレジェンド中のレジェンドの対談は、さすがに説得力のある内容でした。その中で、矢沢さんが何故76歳になっても歌い続けるのか、という話題がありました。矢沢さんの歌い続け方は中途半端な内容ではありません。若者顔負けのライブパフォーマンスを中心に活動を続け、武道館の公演回数は前人未到の150回に達します。

矢沢さんは、「(ローリングストーンズの)ミックジャガーは80歳を超えても歌い続けている。彼は、きっと生きるために歌い続けているんだ」という話をしました。世界的なスーパースターですから、経済的な理由で働き続けている可能性は限りなくゼロに近いでしょう。にも関わらず彼らが歌い続ける姿を、一般とは違う世界の話と突き放して見るか、経済的な理由が無い究極状態での価値観と見るか、で矢沢さんの言葉の意味は違ってきます。

後者の立場を取るのであれば、どんな人にも経済以外に働き続ける理由があると解釈することができます。そう考えることは、働くとは何か、という根源的な問いへの答えに繋がっていくように思うのです。